コロナ禍のオンライン書道指導から感じたこと

はじめてオンライン指導を実施したのは2月29日(土)のことでした。

2月26日のイベント自粛要請を受けての決断でしたが、とてもスムーズにオンライン指導を始められたように思います。実施のほぼ1週間前に「今後、状況によっては通信指導になるかもしれません」という準備のメールを送っていたことで混乱なく始められた感がありました。事前説明は大事ですね。

NHK首都圏ニュースにて書塾の通信指導を取り上げてくださったのは3月7日(土)のこと。今にして思えば、自分で言うのもなんですが(笑)、かなり対応が早かったのだと思います。書塾の生徒さんからも、「今回の先生の迅速な対応には感激しています」と言ったお声をいただいたりもしていました。私はただただ必死でしたが、思いがけない取材や生徒さんたちのそう言ったお言葉にとても励まされて、突き進んでいたと思います。

まさか、そんなドタバタで始まったオンライン指導が、3ヶ月(いやこれからもずっと?)続くことになろうとは思っていませんでした。東京の感染の状況も少し収まりを見せ始め、この3ヶ月を振り返って思うことをまとめておくことにしました。

自宅ならではの作品も生まれました

自宅ならではの作品も生まれました

 

1. 100%の参加、100%のサービスを目指さないこと

「対面での指導はできなくなる」と思った時、「休講」という選択肢が第一に浮かびました。しかしそれは「せっかく上達してきた生徒さんたちが数週間以上筆を持たずにその腕を鈍らせてしまうことであり、また同時に、私自身も収入の不安を抱えることを意味していました。そして、「LINEやメールを活用して画像を送り合えば、指導ができるかもしれない。とりあえずやってみよう!」と考えるに至りました。

100%の参加を目指さないこと。

当然のことながら、通信指導は対面での指導とは異なります。参加しない生徒さんが出てくることは想像ができました。それは当たり前のことで、参加するかしないかはきちんと生徒さんが選択できるよう説明をすることが必要だと思って、事前のメールでお話をしました。書塾には現在60名ほどの生徒さんがいます。この3ヶ月の間に通信指導に参加してくださった方は40名程度です。はじめから「通信指導では集中できないから」と不参加の方もいましたし、小学生のお子さまでは途中から「学校の宿題も多くなって、親子ともに疲れてきたので」と不参加になる方もいました。

100%のサービスを目指さないこと。

通信指導になって一番困ったのは、「生徒さんの顔が見えない」ことでした。私も通信指導をして初めて「ああ、私はいつも生徒さんの表情を見て、アドバイスの内容を変えていたんだ」と気づかされたのです。通信に慣れるにしたがって「今楽しんでいますか?」と率直に尋ねることにより少しずつ解消されました。
「書いているところを見せられない」「書いているところが見えない」と言った問題もありましたが、この悩みもお互いに動画を送りあうという手段を駆使することで、大方解消されてきたように思います。
本当は生徒さんの筆を持って一緒に書いてあげたいのだけれど、そればかりはどうにもできませんでした。これは、ソーシャルディスタンスを保つ必要性から、今後も簡単にはできないかもしれません…

つまり、通信では対面で行なっているのと同じサービスはできないのです。100%同じは無理。でも、チャレンジして改善することはできるし、動画は何度も見られるという通信ならではのメリットも発見することができました。まずはやってみる、これに尽きると思います。

学校に行きたいことが伝わってくる作品

学校に行きたいことが伝わってくる作品

 

2. 「個」の学びと「協働性」

これは、通信指導に限らず、私の教育者としての指導方針の話でもあります。

今回、通信指導の話をするといろんな方に「zoomを使ったの?」と尋ねられました。答えは「No」で私は主にLINEを使っていました。理由は簡単で、zoomでは個別指導はしにくいからです。

私は、教育の基本は個別指導だと思っています。書塾のモットーも「それぞれの書の道を進むこと」としており、学ぶ内容も生徒さんそれぞれがご自身で決めていらっしゃいます。カリキュラムはありません。私はアドバイスを与えるサポート役のような感じです。

では、書塾としての一体性は何もないのかというとそうでもありません。書塾という場所に価値があると思ってくれている生徒さんがとても多いと思います。それは、うちの書塾は子どもから大人までみんな一緒に学んでいて、お互いがどんな練習をしているのかということから大いに刺激を受けあっているからです。

今回、通信指導になるときに、LINEでの個別指導は良いが、書塾としての一体性、協働性をどう確保するかに悩みました。「個」と「協働性」の両輪あってこその書塾なので、片方が欠けてしまうことがあってはならないと思いました。これは、苦肉の策ではありましたが、通信指導の間はそれぞれの練習した作品を毎回私のブログにUPするという方法で解消することにしました。これがどれだけ刺激になったかはわかりませんが、少なからず、自分の作品が載せられるというプレッシャーから自宅でも真剣に書いてくれる生徒さんが多くいらっしゃったことは確かです。また、百字文動画プロジェクトも協働性に一役買ってくれたかと思います。

「個」の学びと「協働性」。これは、ポストコロナの教育を考える上でもキーワードになると思っています。

外出自粛を使っての大作も生まれました。郵送での通信添削もしました。

外出自粛を使っての大作も生まれました。郵送での通信添削もしました。

3. こんな事態には、まず子どもたちの心のケアを

緊急事態に直面して、思いがけず私は生徒さんたち、生徒さんの保護者の方たちとLINEで繋がることになりました。いつもの書塾では保護者の方とお話をする時間はとても限られているので、この3ヶ月間で保護者の方々とはむしろとても心が近づいたような印象もあります。

中には、小学生でもスマホ、LINEを持っているお子さまもいて、自分で書いた作品の写真を撮って送ってくれました。

そんな小学生の生徒さんの一人から通信指導の時間外で急にLINEをもらったことがありました。緊急事態宣言がなされてすぐの、最も社会が混乱していた頃です。お父さんも、お母さんも、仕事で自宅にはいらっしゃらず一人で家にいるとのことでした。お母さまはとてもしっかりした優しい方で私もよくわかっていますので、お仕事の状況で、小学校低学年のお子さま一人を家に置いていかなければならない、本当の緊急事態だったのだと思います。今年の4月は少なからず、日本はそのような状況でした。
そのお子さまとは何を食べているのかとか、何をして遊んでいるのかとかそんな話をしました。何日か、そんな日があったように思います。けれど、すぐにLINEは来なくなって、その後の通信指導のときに聞いてみたら、「もうお母さんも家にいてくれるから大丈夫」とのことで安心しました。

今、日本の教育現場は揺れています。9月入学の話も進んできています。授業のオンライン化も必要なことで、これから様々な工夫がされていくでしょう。私は9月入学そのものに反対ではないし、オンライン化もどんどん進めば良いと思っています。けれど、その前に、この3ヶ月間自宅にこもっていた子どもたちの心のケアが、何らかの形でもう少しなされてもよかったのではと思っています。電話でも、手紙でも、アナログな方法だっていい。子どもたちは先生からのちょっとした、定期的な声かけを必要としていたように思います。

私は、こんな書道の先生でも、そのお子さまが頼ってくれたことが嬉しくもあり、もっと何かしてあげたいという思いと、出すぎたことはできないという思いで揺れ動きました。他の生徒さんたちにも、もっと支えとなるような声かけができたのかもしれないとも感じています。

子どもは強い!!

子どもは強い!!

 

以上、私がこの春の緊急事態のドタバタの中で考えたことをざっくりまとめました。大きな社会、ライフスタイルの変化の時期を迎えています。全ての変化を受け入れ、淡々と取り組むというのは書道の精神であるものの、言うは易し行うは難し、ですね。また、私の悩みも含めて、こうして記録する機会があれば書いてみたいと思います。