「百字文」全文
下記に、「百字文」の全文を載せさせて頂きます。「“幸せ”とはなんだろうか?」という、答えのない問いに、それぞれの人生を重ね合わせながら、お読み頂ければ幸いです。
「百字文」 詩:天山、寧月
天高雲翔 | 天高く 雲翔ぶ | Heaven is high, clouds floating. |
地広水長 | 地は広く 水は長しへに | Earth is grand, water flows forever. |
日出東海 | 日は 東海に出で | Sun rises over the east sea. |
月落西山 | 月は 西の山に落つ | Moon goes down to the west mountains. |
鳥語花香 | 鳥は語り 花は香しい | Birds are singing as flowers smell sweet. |
慈母情深 | 慈しむ母 情深し | The love of tender mothers is deep like ocean. |
楽育学歩 | 楽しく育ち 学は歩む | Children grow up happily, learning as they walk. |
探遊外界 | 外界を探遊す | Play and search the outside world. |
交友読書 | 友と交わり 書を読む | Build friendship while they read books together. |
笑談未来 | 笑いて未来を談ず | Always laughing by talking about the future. |
恋愛成家 | 恋愛して家を成し | Young loves change up to the family. |
春耕冬蔵 | 春に耕し 冬に蔵む | Cultivate in spring, store crops in winter. |
夫妻好合 | 夫妻好合 | Husband and wife care each other. |
子孫有望 | 子孫に望みあり | Give hopes to their descendant. |
感謝平常 | 平常に感謝す | Say “thank you” to every peaceful day. |
世間万物 | 世間万物 | Everything in the world, |
古今終始 | 古今終始 | Has its start and the end in any era. |
悲喜輪転 | 悲喜輪転 | Joy and sorrow round and repeat. |
逝者如斯 | 逝く者斯くの如し | People pass away in the same way. |
時不我待 | 時は我を待たず | Time goes by without waiting for me. |
幸福何在 | 幸福は何処に在りや | Where and what is the “happiness”? |
畏敬自然 | 自然を畏敬し | If we respect the nature, |
健康食眠 | 健康なる食眠すれば | Eat well, sleep well, |
風光無限 | 風光は無限にして | Wind and light has the infinite power. |
生命美也 | 生命は美也 | The life is nothing but beautiful. |
「百字文」創作の経緯
さて、この「百字文」が、今回こうしてお届けできるようになるまでには長い道のりがありました。まず、私が「百字文」をつくろうと思うまでには、書道と教育の今後を考える過程で、日本の教育史における「千字文」の果たした役割の大きさに気づいたという背景があります。“手習い”を中心とした江戸の教育のメリットは、今後、21世紀の日本の教育を考え直していく際に、改めて脚光を浴びていくだろうと考えています。奈良時代に日本に伝わり、江戸時代には幅広い階層の人々の教科書となった「千字文」。平成を生きる私たちにとっても、東洋の教養がギュッと詰まったこの素晴らしい古典がもっと身近になればと、まずは親しみやすい「百字文」をつくってみることにしました。
次に、「百字文」に用いる漢字の選出、詩の創作という場面に入りました。まず、この美しい地球について書き、それから、私たち人間の人生を幼少期から老年期にかけて描きたいと思いました。今を生きる私たちの心に呼応するような内容で、かつ、「千字文」と同じように儒教や仏教の思想を伝えるものにしたいと思いました。誰にでもわかるような簡単な詩であることも大切だと思いました。そして、最後は「生きることは美しいーLife is Beautifulー」というメッセージで終わりたいと考えました。しかし、これまで漢詩をつくったことがなかった私にとって、このステージは一人ではなし遂げるとができませんでした。私がつくった草稿「百字文」はとても未熟でした。
悩んでいたとき、友人の天山さんに「百字文」について話をすると、寧月の思いをすぐに理解してくださり、「百字文」の創作に加わってくださりました。天山さんは中国に生まれ、中国の古典への教養に富むと同時に日本の文化を敬愛し、日本の大学院で心理を専攻し、卒業されています。寧月と天山は不思議な共通する感性で響き合いました。天山さんと人生について語りながら、「百字文」の言葉をひとつひとつ紡いでいった過程はとても豊かで、二人の信頼が育つとともに、「百字文」の思想も深く、より美しいものに育っていきました。「夫婦好合(詩経からの引用)」、「逝者如斯(論語からの引用)」や「時不我待」などの言葉も天山さんが吹き込んでくれた言葉です。天山さんが創作に加わってくださったことで、「百字文」を今ある形にまとめあげることができました。
そして、「百字文」は歩み始めました。「フロー書道」をテーマにした「ヨガと書道」において、「百字文」は格好のテキストとなりました。今回、uzna omom b oneでの展示においても「百字文」を題材とすることが決まっていきました。この間、「百字文」の内容についてアドバイスをくださったり、「百字文」に書き下し文をつけるにあたって、また、英訳をつけるにあたってご協力をくださった方々にも、大変感謝しております。これからまだ、「百字文」はより良いものしていくために改訂が行なわれていくだろうと思います。「百字文」はたくさんの方々のお力を得て、進んでいます。今後、「百字文」が寧月をどのようなところへ導いていってくれるのか、楽しみにしています。
【天山 Tian Shan テン・シャン プロフィール】
「人生は芸術である」(Life is Art)活動を主宰する。
中国生まれ。中国の大学で日本言語文学を学び、日本の国立大学の大学院心理学コースを卒業。現在子ども関係の研究所で仕事をする傍らに、漢詩を詠むことや染色の研究など幅広く活動している。
mail:tianshan_tenzan@yahoo.co.jp
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