入塾して3年が過ぎました。もっと長い時間書塾でお世話になってきた気がします。そう感じるのは、月2回計80日(120時間)休まず蓮月か通信で続けてきたからかもしれません。もはや私の人生に欠かせない趣味になっています。
書塾花紅に通うきっかけ
これまで一度も字を習ったことはありませんでしたが、小中学生の頃は展覧会や書き初めで毎年金賞をもらっていました。私の母は、ボールペン字の通信講座を熱心にやるほど字を上手に書こうと努めていた人で、毎年届く年賀状の中から、達筆な字を見つけては真似て一緒に書いたことを覚えています。そんな記憶が30代で甦って以降、いつか書道を老後の趣味にしたいと考えるようになりました。その後、小学校に上がった娘が習字を習い始めて、年々娘の上達を見ているうちに老後が待てなくなり、そこから大人向けの書道塾を探す私が、書塾花紅に引き寄せられるのに時間は掛かりませんでした。
これまでの作品展
2018年10月、入塾後すぐにやってきた作品展。何でも自由に書いてよし!という先生の言葉に創作欲を搔き立てられ、すぐにユザワヤで半切を初購入したあとは、今書きたい四字熟語を探して、縦に大きく「泰然自若」と配置を決め、字体は字典から空海を選びました。完成後、自分で全く予想していなかった出来栄えに大きな達成感を味わいました。その後は2019年九成宮醴泉銘、2020年風信帖。そして今回、2021年は米芾の虹県詩巻(旧題)を選びました。選んだきっかけは2018年に様々な字体を見ていたときに、米芾の字体が一番格好いい!!と思ったことでした。
米芾の書と意臨
虹県詩巻は米芾の晩年の大字の書です。一文字一文字ゆったり間隔を空けながら始まり、ダイナミックに流れ続けるような筆遣いと、掠れながらも途切れない紙と墨のバランス、繊細さと強さが現れているように感じました。これを可能な限り実物に近い形で仕上げたいと思い、手本としたのが以下の2つのページです。
- 東京国立博物館の画像検索(https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0099102)
- エリオット・コレクションと宋元の名蹟(http://qsshc.mond.jp/cpoem/mifu.html)
1では実物写真にスケールが入っているので、これを実物大に近い大きさで印刷して手本にしました。
2は、筆や半紙の特徴・墨の濃さをはじめ、墨を継ぐタイミングなども考察しているページです。
- 実物に近づけるために、まずは2を参考にして筆・墨・半紙を購入しました。
- 虹県詩巻の一番の特徴である掠れは、超濃墨液に水を数滴垂らした墨で、少し粗めでざらつきのある半紙に書くことでほぼ解決しました。一文字目は濃くはっきり書けて、二文字目にはイイ感じで掠れが出て、三文字目、四文字目で更に掠れるものの線が消えることなく繊細に書き続けられることが分かりました。超濃墨液を使うことは(ユザワヤで購入を1時間迷うほどの)チャレンジでしたが、適度な掠れを出すための答えを見つけることができました。ただ水の量での調節次第なので、毎回掠れ方は変わりました。この掠れの解決以降は、文字の大きさや全体の配置バランス、細かな修正などに集中することが出来ました。
- 先生からの技法アドバイスにより、筆の速さを変化させる、筆の裏を使う、一度払うようにしてから切り返す、筆を寝かせて腹をつけるように書くなどを試すうちに、原本に近い流れや掠れが出せるようになっていきました。
- また先生からは臨書の種類に形臨と意臨があることを教わりました。形を真似る臨書と書家の意図を汲み取る意臨。少しでも意臨に近づきたいと思いながら形臨を続けていた気がします。今回提出した作品は、どの練習よりも半切に対して姿勢を正して向かい、神経質に形を似せるというより筆の流れを大切にして書けたものでした。そして書いているときは落ち着いて集中していて、余計なことは考えていなかったような気がします。結果として線に勢いが出て、強弱もつけられたのかもしれないと感じています。いつか米芾の背臨にチャレンジしたいです。
- 今回の作品は1年間のプロセスに満足いく作品となりました。
字を丁寧に書くこと
これまで取り組んできた中で、姿勢を正す、素直に向き合う、集中する、バランスをとる、軸がぶれない、道具を大切にする、強さに強弱をつける、速さに強弱をつける、などが書道のポイントとしてあると思いましたが、一言でまとめると“丁寧”さが大切だと感じています。私のこれまでを振り返ると、字を丁寧に書いていた時期と、汚く適当に書いていた時期とがありました。汚く書いていた時期は心持ちも悪く、あまり良いことがなかったように思います。因果応報というのでしょうか。日々の出来事に対して自分が執る一つ一つの行動や言動の丁寧さによって、良くなったり悪くなったりしていたのかもしれないと、このレポートを書きながら振り返ることが出来ました。
寧月先生のご指導に改めて感謝いたします。
そしていつも書塾の皆さんの作品に刺激をもらい、先生と小学生のやり取りに癒されています。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします!
清貴
_____________________________
清貴さんへ
今、完成した作品を目の前にして、この1年間の練習が一つ一つ思い返されます。この1年間の清貴さんの米芾に向き合う姿勢は「真摯」という言葉そのものでした。
一画一画に、「丁寧に」臨んできたからこそ、自信を持って出し切ることのできた「筆の流れ」だと思います。どこか光るようにさえ見える線は米芾のものにとてもよく似ています。
書の道を一つ、大いに見せていただいた思いです。
いつもあたたかに書塾を見守ってくださり感謝いっぱいです。今後とも書塾をどうぞよろしくお願いいたします。
寧月