“「もののあはれ」と日本の美”展 鑑賞の記

これほど、深いため息をつきたくなることもないくらい、感動しました。

“「もののあはれ」と日本の美”展 サントリー美術館 in 六本木ミッドタウン。
日本の美について学び始めて数年、その概観がぼやーっと分かってくる中で、
この展示は今のこの私にぴったりな場で、「出会い」であるとすら感じました。

日本の美を表す言葉「もののあはれ」。
それは、宮廷貴族たちが日々感じていた花鳥風月へのしみじみとした感動のことであり、
源氏物語の中に、もっともよく表されていると言われます。

今回の展示は、その、「もののあはれ」とは何かということを、
江戸時代になって日本の文化を見直した本居宣長にスポットを当てることから始め、
源氏物語、枕草子、西行ら歌人、藤原定家、本阿弥光悦、鏑木清方、そして川端康成まで、
絵画、書、焼き物、蒔絵、と幅広い作品を集めながら、
「概観する」という、壮大なプロジェクトを成し遂げてくれたものでした。
(この企画のプロデューサーはどなたなのでしょう?
どこにもお名前がなくて、とても残念に思いました)
この展示を見れば、日本の美とは何かということを、
日本の美術史にほとんど関心がない人でも感じることができると思います。

「雪月花」もしくは「花鳥風月」。
「自然」という言葉は、明治期になって欧米の言語の翻訳として生まれたものです。
それまで、日本(日本という言葉もそれ以前にはなかったのですが)の人々にとって、
「自然」は「雪月花」「花鳥風月」と呼ばれていました。
「もののあはれ」とは、一重に、“移りゆく”四季に対する、
その微細な変化に思いを寄せる日本人の、心のこと。

今回は、「新月から有明の月まで」と題して月の満ち欠けとその表現を展示したり、
途中には、鶯、雲雀、時鳥らの鳴き声が聞こえたり、
撫子、薄、萩などの秋の七草の解説が添えられたりと、
日本の美術の題材である日本の四季について、
「あはれ」と結びつけて見せてくれていました。
美術館にいるのに、日本の自然の中を旅したような、そんな気分です。

そして、この展示の最後に、私はとても感動しました。
最後は、鏑木清方氏の「朝夕安居」であり、
そこには昭和の夏の人々の平穏な朝が描かれていました。
「安居」とは文字通り、やすらかであるということです。

日本の「もののあはれ」は、移ろいゆく自然に対する日本人の美意識であり、
そして、その四季折々の変化を感じてゆく心は、
やすらかな日常であるからこそ育むことができるというもの。
日本人は安穏とした日常を好み、だからこそ自然を愛で、
そしてそのために、平和を守っていこうとしているのではないでしょうか?

最後に、私の雅号「寧月」は「寧=やすらかなり」と「月」です。
この展示を終えて、まるでこの雅号が「あはれ」そのもののような気がして、
うれしくなりました。

一首紹介して、終えたいと思います。
「水のおもに てる月なみを かぞふれば こよひぞ 秋のもなかなりける」源順