ちょっと遡りまして、、、今年3月のお話です。世田谷区立中学校にて、卒業を間近に控えた中学3年生の生徒さんたちに書道の授業を行う機会をいただきました。
10代の、子どもとも大人とも言えない多感な方々に書道を以て何を伝えようかと悩みましたが、「書道で学ぶデザイン」と題し、“デザイン”という視点から書道の意義と楽しさを伝えようと、初めての中学校での授業に臨みました。
自己紹介を終えたあと、「じゃあ、みんな『幸』の字を自由に書いてみて」と課題を。小学校低学年くらいまでは「自由に」と言われれば、自由に、楽しく、字をたくさん書いてくれるものですが、10代に入ると、「自由に」と言われると筆が止まってしまうものです。自由に書いてみようとしても、下手だと思っていたとしても、これまで習ってきた習字の基礎は身体に染みついているもので、多くの人が習字らしい「幸」を書いてくれました。その一方、悩み抜いて、この最初の段階から自分らしい「幸」を書いてくれた人もいました!
「自由」を思い出すために、ぐるぐるとギザギザの運筆練習。こうして書いたあとに、「幸」を書いてみると、ちょっと文字が崩れて、やわらかい「幸」やするどい「幸」も書けるようになります。
ちょっとデザイン書道の雰囲気がわかってきたところで、世の中の筆文字をみんなで見てみました。居酒屋、ラーメン屋、日本酒のラベルなど… 身の回りには筆文字がたくさん転がっていて、日常生活の中でも目にしているものですね。それぞれの文字が、どんなことを伝えようとしているのでしょう?
「デザイン」には、「伝えたいこと」があるんだよ。じゃあ、「自分」を筆文字でデザインしてみようか!
ということで、今回の授業の目玉、「自分の名前のロゴをデザインしてみよう!」の時間に入りました。自分はどんな人間だろう、どんなふうに自分のイメージを伝えたいだろう?そんなことを考えながら、筆を使って、自分の名前の漢字やひらがなをデザインしました。授業のはじめの頃とは打って変わって、みんな筆が動く動く〜!楽しい、楽しい♪
筆に慣れてきて、まるでプロの書道家のような達筆のロゴを書いてくれた人もいました。みんなそれぞれのロゴを見合っては、「これいい!」と誉め合ったり、笑い合ったり。
そして、授業の最後。
実はこの日、私は生徒さんたちに事前課題を出していました。「現在は、鉛筆やパソコンなど文字を書く手段は他にもたくさん出現しました。それでも、私たちは書道を学び続けています。私たちはどうして書道を学び続けているのでしょうか?自由に記述してください」。そんな課題に、真剣に取り組んでくれた生徒さんたち。「日本の文化を知るため」「自分と向き合うため」など、それぞれに考えて、興味深い意見をたくさん書いてくれました。
私が書道を続ける中で感じていることは、書道は「自分を知り、他者に学ぶ」手段のひとつであるということです。この「自分を知り、他者に学ぶ」スキルは、人が成長し、何かを成し遂げていくためには必ず必要なスキルなのではないかと、そんなことを生徒さんたちに伝えて、授業を終わりにさせて頂きました。
熱意ある先生方から、「最後は自分たちには伝えられないことをたっぷり伝えてほしい」と言われていたので、私も、アーティスト、個人事業主という人生を選んだ立場から、これから大人になろうとしている生徒さんたちに、普段はなかなか言葉にできない思いを語らせてもらいました。熱っぽすぎたのではないか?と不安に思う必要はないほど生徒さんたちのまなざしは真剣で、この授業から何かを掴もうとしてくれている姿勢が見て取れて、私も背筋が伸びる思いでした。ありがとう。
中学生というステージは、人生においても短く、特別なものであると感じています。デザインやアートが好きそうな生徒さんもいらっしゃいました。僅かな時間ではありましたが、誰かの心に何かが残っていてくれたらうれしいです。
みんな、どんな高校生活を送っているのかな?
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