3月、世田谷区の中学校で卒業前の特別授業をさせてもらいました。
こちらの中学校は3年前にもお邪魔させていただき、その時は「書道とデザイン」をテーマに文字で自分を表現することにチャレンジ。皆、とても熱心で一生懸命考え、書いてくれた記憶があったので、今回もとてもこの日を楽しみにしていました。
今回のテーマは「歴史上の人物の書」。当初は前回と同様「書道とデザイン」で考えていましたが、なんと、以前の私の授業を受けて担当の国語の先生がすでに「漢字を筆で表現する授業」を導入済み!との報告を受けて、今年は一歩先に進むことにしました。
私が教材として準備したのは、5人の超有名な歴史上の人物が書いた書の作品です。
1、聖徳太子「法華義疏」
2、空海「風信帖」
3、織田信長の書簡
4、西郷隆盛「敬天愛人」
5、川端康成「生活は芸術である」
まずは、5つの書作品の画像を配り、5人の歴史人物の「誰がどの書を書いたでしょうか?」クイズ。前段として、それぞれが何時代に生き、どんな功績を残したのかなどを発表してもらいながら進めていきました。親しみやすく、中学生が読むことができるのは川端康成氏のものだけだったと思いますが、「これはお経だからお坊さんが書いたと思う」とか「武士はこういう手紙を書いているのを見たことがある」とか様々な推測をしながら答えを導き出してくれました。
次に、気に入った書を真似して書いてみよう!ということで、それぞれの作品の臨書に取り組んでみました。正直なところ、書写の授業で書いている文字よりも遥かに専門的で高度な文字になるので、どれだけ生徒さんたちが興味を持ってくれるのか不安なところもありましたが、やってみると、みんなすごい集中力で楽しんでくれました。
西郷隆盛「敬天愛人」は草書で書かれており、生徒さんの中から「これは“て”でしょ?」との声が。「天」は「て」の元になった漢字であり、その草書は、まさに「て」。こういう気づきが生徒さんの中から出てくるのはとても嬉しい!他にも、川端康成「生活は芸術である」は変体かなの「者(は)」を含んでおり、「これはお蕎麦やさんの看板に見られる“は”だよ」などの豆知識を入れて授業を展開しました。信長の書簡などはもはや文字とは思えない線のアートとも言えますが、熱心に臨書に取り組んでくれた様子に、歴史上の人物の書を臨書するという授業の可能性を感じさせられました。知っている人物が書いたものだからこそ、書けたのだろうと思います。
その後は、「書道家としてのキャリア形成」というテーマで話をさせていただきました。事前アンケートで、「書道家になるのに必要なスキルは何でしょうか?」という問いかけをさせてもらっており、中学生の中から非常に洞察力のある回答が出てきて、私は感動でした。中でも、私がとても大切にしている「直感力」や「体幹」といったキーワードが自然と生徒さんの中から出てきたことに驚き、そして何よりも、私自身全く気づいていなかった能力として「やさしさ」という言葉が出てきたことに、感動させられました。書道家になるにしても、どんな職業につくにしても「やさしさ」は欠かせないだろうと思います。そんな当たり前のことに気づかされて、私自身得るものの多い授業となりました。
余った時間で生徒さんから自由に質問を受けました。全部紹介できませんでしたが、私自身印象に残っているのは「何で二度書きしちゃいけないんですか?」というもの。直球な質問、大好きです!多分、これまで書写の授業などで小学校の頃から何度も「二度書きはダメ」と教えられつつ、納得のいく回答は得られてこなかったからこその質問だったと思います。私の回答は「書は“線の美”を魅せる芸術だから」。書は如何に、美しい線を描くかが勝負です。一瞬の書き手の呼吸が伝わる線が美しい線であるので、同じところに二度線を引いてしまうとほぼ間違いなく線の美しさは失われます。そんな話もして、書道というものの真髄、本質を何か伝えられたのなら、書道に興味を持ってくれる生徒さんが一人でもいてくれたら。
書道の面白さは、歴史を学んではじめてわかってくるものなのではと思っています。ですので、本当は私が一番語っていきたいのは中学生、高校生であったりもするのです。でも、その世代の子どもたちというのは部活や勉強に忙しく、なかなか私が書道を教える機会を持てることは多くありません。こうして熱く語らせてもらえる機会をもらえるのは本当に幸せなことです。
「歴史上の人物の書」の授業は、非常に内容の濃いものであり、本来は、一人の人物で2時間くらいかけて、トータル12時間くらいで取り組みたいテーマです。また、こんな授業を行う機会に恵まれたらとてもうれしいです。
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