[ことこと書日記 vol.09]江國香織「抱擁、あるいはライスには塩を」より

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寧月書 江國香織「抱擁、あるいはライスには塩を」より

ことことと、日々を煮込むように。
4月26日新月、寧月のことこと書日記第9回をお届けします。

数年前、久しぶりに江國さんの小説を読みました。
「抱擁、あるいはライスには塩を」。

タイトルを見ただけで、脱力した幸福を感じて、
ふふっと笑ってしまうような、そんな小説。
素敵ですよね、抱擁か、塩がかかったライスかの選択なんて。
馬鹿けていて、とても素敵。

江國さんの小説は大好きで、学生の頃によく読んでいました。
ストーリーがというよりも、その小説に流れている、その空気感が好きで。

30歳を過ぎて久しぶりに手にした江國さんのこの小説は、
江國さんの空気感は健在なるも、親子三世代に渡る壮大なストーリーでもあり、
ファンタジーのような、ノンフィクションのような、
ああ、子どものころはこんな風に生きていたのかもしれないと、
世の中の仕組みを知る前の幼子の気持ちを思い出すような、
そんな不可思議で魅力的な小説でした。

寧月書 江國香織「抱擁、あるいはライスには塩を」より

寧月書 江國香織「抱擁、あるいはライスには塩を」より

選んだ言葉は、「自由とは、つまり安全ということだ」。

子どもの頃は、自由という言葉を、冒険とか革命とか、
そういう言葉と結びつけて理解していたように思います。

でも、大人になって、一人の女として生き、
また、子どもを育てる母となって、
自由という言葉はむしろ、安全、安心、平穏と結びついた概念であること。
そういった土台無しには望むことができない貴重なものであることを、
現実を以て知ったようなところがあります。

江國さんも、きっと長い人生の中で、
何か同じように感じていらっしゃるところがあるのかなと、
この言葉を見つけて、とてもうれしくなったのを覚えています。

子どもを育てていく上でいつも思うのは、
子どもには自由に育ってほしいということであり、
そのために親が子どもにできるのは、安全と安心を確保してあげることなのだということです。

 

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